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札幌地方裁判所 昭和30年(行)3号 判決

原告 渡辺重雄

被告 札幌通商産業局長

主文

原告の「違法処分の取消」を求める請求を棄却する。

原告の「取消登録および回復登録処分」を求める訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

一  被告が昭和二十八年十二月十五日札通二八試第九六七号をもつて原告に対して試掘権設定許可および登録取消ならびに出願不許可の件としてした左記各処分はいずれもこれを取り消す。

(一)  昭和二十八年十一月十二日設定登録にかかる天塩国試掘権登録第六〇二〇号鉱区はその出願の許可が錯誤によるものであるから取り消す旨の試掘権設定許可の取消処分

(二)  天塩国天塩郡豊富村地内、石油、可燃性天然ガス試掘権設定願、出願人代表者渡辺重雄に対し、右出願はその区域左記鉱区と全部重複するから許可しない旨の試掘権設定出願の不許可処分

天塩国試掘権登録第三九四七号第四六五〇号鉱区

(三)  昭和二十八年十二月十五日付天塩国試掘権設定登録の鉱区、天塩国試掘権登録第六〇二〇号鉱区の設定登録に対して鉱業法第五十二条に因る取消登録をした設定登録取消の登録処分

二  被告は北海道天塩国天塩郡豊富村地内、石油、可燃性天然ガス鉱区に対する昭和十五年七月二十二日付天塩国試掘権登録第四六五〇号の試掘権設定登録、同じく昭和二十三年十月十九日付同鉱区の試掘権延長の登録、同じく昭和二十八年一月三十日付同鉱区の試掘権再延長の登録、同じく昭和三十年一月十日付同鉱区再々延長の各登録についてはいずれもその取消登録をしなければならない。なお、原告に対して天塩国試掘権登録第六〇二〇号鉱区に対して試掘権設定登録取消の回復登録をしなければならない。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  原告は肩書地に居住している者であるが、天塩国天塩郡豊富村地内に石油および可燃性天然ガスを目的として昭和二十八年四月二十六日付石油および可燃性天然ガス試掘権設定の出願をしたところ、被告は同出願を札通二八試第九六七号として受理し、かつ昭和二十八年十一月十一日これを許可したので、原告は同年同月十二日天塩国試掘権登録第六〇二〇号鉱区(以下単に第六〇二〇号と称する)として試掘権設定の登録をなした。

二  しかるに被告は、昭和二十八年十二月十五日付をもつて、第六〇二〇号はその出願の許可が錯誤によるものであるからこれを取り消す、右出願はその区域が訴外帝国石油株式会社の天塩国試掘権登録第三九四七号第四六五〇号鉱区(以下後者を単に第四六五〇号と称する)と全部重複するから許可しない、との処分をしたうえ、第六〇二〇号鉱区の設定登録に対して鉱業法第五十二条による取消登録をした。しかしてその内容は、請求の趣旨第一項掲記のとおりである。

三  しかし、被告が重複鉱区として指摘したものの内、第四六五〇号は、第六〇二〇号とは区域はもちろん法律上においても全然重複していないものである。それは鉱業登録原簿上明らかなように、訴外帝国石油株式会社の第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日設定登録されたものであるから、昭和十九年七月二十一日をもつて四年の存続期間が満了し、その当時において存続期間延長の登録がされず完全にその権利は消滅したのであつて、原告が第六〇二〇号の設定登録をした昭和二十八年十一月十二日当時においては実質上先願者なるものは存在せず、唯登録原簿上に既に無効に帰した第四六五〇号の登録の残骸が記載されていたのに過ぎないのである。その当然の結果として、同鉱区に対してされた昭和二十三年十月十九日の延長登録、次いで昭和二十八年一月三十日の再延長登録も全部無効であり取り消さるべきものである。したがつて、原告の第六〇二〇号は、先願者のない完全に有効なものであつたのである。

四  これを詳論すれば、

(一)  第四六五〇号の登録の日は昭和十五年七月二十二日であつて、当時の旧鉱業法により試掘権の存続期間は二年であつたが、昭和十六年六月一日施行の法律第百二号によりその存続期間は四年に延長されたので、右試掘権は昭和十九年七月二十一日をもつて消滅している。すなわち、法律第百二号は、昭和十五年四月六日公布され、その改正内容は本文の第二条より第百六条まで三十二ケ条を改正し、これに附則として第一条より第十四条までを規定した改正鉱業法である。しかして、試掘権の存続期間の改正については、改正規定本文の第十八条第一項中「二ケ年」を「四ケ年」に改むと改正し、附則第十条本文においては、本法施行の際現に存する試掘権の存続期間は本法施行の日より四年とす、但しうんぬんと規定し、附則第一条は本法施行の期日を大別して、

(イ)  要塞地帯に関する部分

(ロ)  陸軍輸送港域に関する部分

(ハ)  その他の規定に付いての部分

の三つに区分し、何れも勅令をもつてこれを定めるとしたのである。しかして右(ハ)の場合は昭和十六年五月十三日勅令第五百八十三号をもつて左のとおりその施行期日が定められた。

すなわち、

昭和十五年法律第百二号鉱業法中改正法律の一部施行期日の件

「昭和十五年法律第百二号は第十条の改正規定を除くの外昭和十六年六月一日より之を施行す」

といとも明瞭に規定して附則第十条の施行日だけは勅令から除外してその施行期日を定めなかつたのである。したがつて、第十条の施行期日は法律公布の本来の性質によつて同附則(法律第百二号)公布の日である昭和十五年四月六日から施行され、その結果、第四六五〇号の存続期間は登録日の昭和十五年七月二十二日から起算して四年後の昭和十九年七月二十一日をもつて満了したものであることは疑のないところである。この附則第十条本文だけを改正規定本文の第十八条第一項と切り離してみる場合においてのみ施行の日から四年となるとの皮相の見解を生ずるのである。附則第十条本文の、施行の日より四年とす、との趣旨は、公布の日から四年となるのではなく、この法律施行の日から法定の存続期間が四年となる、すなわち従来の法定期間の二ケ年が施行の日から二ケ年延長されて四年となるとの意味であり、あくまでも改正規定本文の第十八条の趣旨を尊重し、これに変更を加えるものではなく、また附則として本文に変更を加え得るものでもない。その意味においてのみ附則第十条本文は施行細則的性質を持つものとも言い得るものであつて、現存する試掘権を一律に施行の日から四年に延長するという延長の規定、すなわち改正規定第十八条と同一性質の改正をしたものでは絶対にない。このことはその但書に延長することが規定してあることによつて明らかなことである。施行細則的規定の本質としては改正規定各本文の根本的趣旨に変更を加えることができないことはいうまでもない。万一、施行の日から四年とするとすれば、当時現存するすべての試掘権の存続期間は一律に四年に延長され、その結果は施行の日に現存するすべての試掘権は何程かの残存期間を有しているのであるから、その各試掘権は何れも設定登録の日から計算して四年何ケ月という存続期間となり、法律第百二号改正規定本文第十八条の趣旨に反する不当のものとなる。

しかのみならず、附則第十条但書の「但し主務大臣已ムコトヲ得サル事由アリト認ムルトキハ石油ヲ目的トスル試掘権ニ付イテハ四年以内、石油以外ノ鉱物ヲ目的トスル試掘権ニ付イテハ二年以内之ヲ延長スルコトヲ得」と規定してある。現行鉱業法においてはその第十八条第二項において試掘権の延長を規定しているが、法律第百二号改正前の旧規定においては試掘権の延長は全く規定がなく、この改正鉱業法の法律第百二号附則第十条但書において始めて試掘権の存続期間の延長を規定したのである。この意味においてはこの但書の規定は法律第百二号の改正規定本文第十八条と同一性質を持ち、附則第十条全体としては施行細則的性質を喪失せしめるのである。結局附則第十条は但書が主たる目的であつて、本文は附属的性質を持つものである。換言すれば、但書の延長に関することを規定する前提として、先ず本文において改正した法定期間が四年となるのは本法施行の日からであるということを規定したに過ぎないものである。これを約言すれば、「施行の日から法定期間は四年となる、但し已むことを得ざる事由があれば四年ないし二年の範囲で延長することができる」という意味の規定であつて、ここでは寧ろ本文は但書を規定する前提に過ぎないものである。

しかりしこうして、附則第十条の全体と改正規定本文第十八条の趣旨と法律第百二号の改正趣旨とを総合して考察する時は、益々「施行ノ日ヨリ四年トス」との附則第十条本文の規定が法定期間の四年であつて延長期間の四年でないことが明らかである。かつまた附則第十条が純然たる法律第百二号の期間的もしくは期日的な施行細則でないことは附則第一条の施行期日に関する規定の存することによつて明らかであるばかりでなく、附則第十条が但書において改正本文規定の施行に何の関係もない延長の事項を規定していることによつても明らかである。したがつて、普通に法律の施行規定によつて施行日を延長するという考え方をもつて、漫然附則第十条の本文が改正規定本文の第十八条の規定の四ケ年を延長するの意味すなわち施行日から四年存続すると解するが如きは、全く施行細則の本質を誤認したものであつて許すべからざる謬論である。

なお、勅令第五百八十五号の趣旨を検討しても附則第十条本文が法定期間の延長を規定したものであることが明らかである。同勅令には「法律第百二号附則第十条の規定により試掘権の存続期間を延長するときは鉱業法第十九条の規定による登録を命ずることを要す」と規定されてあり、そして一方においては鉱業法施行細則第百条の規定を設けたのである。この勅令の規定のねらいは勿論、附則第十条本文に示す本法施行の日に現に存する試掘権を対象とするものでなく、寧ろ本法施行の日の前日迄に試掘権の存続期間が満了するすべての試掘権をその施行の日において延長することができることを命じたのであり、またその延長を許可された試掘権は登録せしめねばならぬとして試掘権の延長を許した附則第十条但書の趣旨を徹底してそれと合致させたのである。しかして附則第十条の但書は、その本質は試掘権延長の新設規定たると同時に、新たに延長された期間を商工大臣が何程にすることを要するかを定めたことが主要のものである。そしてその期間の最長期は本文の表示する四年すなわち改正規定本文第十八条の法定期間四年を基準としてその許可の自由裁量を最長四年以内としたものであり、またそのことに重要な意味があるのである。約言すれば、附則第十条但書によつて新たに許可延長される試掘権の新規延長であつて、改正規定本文第十八条の試掘権の法定延長ではない。しかして附則第十条本文の場合は法律第百二号改正規定本文第十八条の試掘権の法定期間の二年を四年にするということであり、その対象となるものは現に存続している試掘権を継続するのであるから、その起算日は登録日からであるが、但書の場合は既に同法施行日の前日迄に消滅した権利を対象としてそれを施行日において継続させて延長する理論上からして、その試掘権の登録日を起算点とすることはできず、同法施行の日から起算するのである。

けだし、この附則第十条の規定は、当時戦争が太平洋戦争に突入せんとする直前のことで、重要鉱物の増産を目的とし、試掘権の如きはできるだけその権利の消滅を防止して各種鉱物の採掘増産を図らんとした意図からで、現に存する試掘権の保護延長を期したものに外ならず、その当然の立法趣旨からして公布と同時に施行すべきものであり、一日も早く施行してまさに消滅せんとする試掘権を保護するためには施行期日を置いて準備する必要のないものである。これがために勅令第五百八十三号は特に念を入れて、法律第百二号は「第十条の改正規定を除くの外」昭和十六年六月一日よりこれを施行すると規定したもので、大いに意味あるものと言うべきで主張は誤つている。

(二)  仮りに右(一)の主張が理由がなく、法律第二百二号附則第十条の施行期日が昭和十六年六月一日であり、第四六五〇号の存続期間が同日より四年後の昭和二十年五月三十日迄であり、昭和十九年十月一日に増産法が適用になつて残存期間八ケ月の進行が停止され、商工省告示第五十五号により昭和二十三年六月一日より残存期間が進行を開始し、存続期間中の昭和二十三年十月十九日に延長登録、昭和二十八年一月三十日再延長の登録がなされたものであるとしても、昭和二十三年十月十九日の延長登録は次の理由によつて無効のものであり、これを基礎とするその延長登録は当然無効である。

イ、第四六五〇号の登録原簿の表示番号四番の表示欄によれば、

「昭和二十三年十月十九日存続期間を昭和二十八年一月三十一日迄延長登録す」

とあつて、登録の日から四ケ年を超過すること三ケ月十日である。この登録当時の旧鉱業法第十八条には、「試掘権の存続期間は登録の日より四ケ年とす」と規定されており、その延長もまた当然四ケ年を越えてならないことは明らかである。現行鉱業法第十八条は、「試掘権の存続期間を登録の日から二年とする」「延長する期間も一回に二年とする」と規定して延長の期間が最初の存続期間と同一であるべきことを明記しているが、これは法律の明文を待つ迄もなく理論上当然のことである。試掘権の存続期間の始期が登録によつて進行し、四ケ年で終了するものであれば、それを延長した存続期間の始期もまた登録によつて進行し、四ケ年で終了することは説明を要しない更新の原理である。したがつて、「登録の日から何年迄存続する」というように期間を登録してもそれは法律に違反した登録であつて登録の効力を生じないのである。少くともその法定の期間「四ケ年」を超過した部分の期間は試掘権を延長して存続させる効力のない無効のものである。この点からして試掘権第四六五〇号は昭和二十三年十月十九日から起算して四ケ年の最終日である昭和二十七年十月十九日をもつて完全に消滅したものである。

同じく表示番号八番の表示欄に、昭和二十八年一月三十日付で、「本試掘権の存続期間を昭和二十八年二月一日より二ケ年延長したことを登録す」とし、四番の延長登録を昭和二十八年一月三十一日まで存続したものとしてこれに接続させて試掘権の存続期間を継続延長させた形の登録となつている。しかしながら前述の如く四番の延長登録が法律違反の無効の登録で、延長の効力を生じないものであり、少くとも昭和二十七年十月十九日以後は延長の効力を生じておらず、その時から試掘権は完全に消滅していることは明らかなところであるから、八番の延長登録のなされた昭和二十八年一月三十日には延長すべき試掘権は存在しない。

同じく表示欄十一番において、昭和三十年一月十日付「本試掘権の存続期間を昭和三十年二月一日より二ケ年延長したることを登録す」としても、既に八番の延長登録が違法にして無効に帰している以上これもまた当然無効のものである。

要するに四番の基本的な延長登録は法律上無効であり、最大限に見ても昭和二十七年十月十九日限りその効力を喪失したものである以上、この無効に帰した登録を基礎とする八番および十一番の延長登録は当然無効である。而して原告の出願設定はその登録において明らかなように昭和二十八年十一月十六日であるから、この時において訴外帝国石油株式会社の第四六五〇号は既に消滅しており、原告の第六〇二〇号には先願者は存在しない。

ロ、第四六五〇号の鉱業原簿表示欄四番の延長登録は昭和二十三年十月十九日になされたが、単に「本試掘権の存続期間を昭和二十八年一月三十一日まで延長を登録す」とあつて、延長する期間の始期を全然記載していない。これは鉱業法の根本趣旨に反するもので無効である。少くとも第三者に対抗するためにはその始期を明示する必要があり、明示なきときは登録の日をもつて起算日とし、延長の期間を計算するより他に公示の方法はない。この点は鉱業権の登録が登記に代はるものとする鉱業法第十二条の、鉱業権は物権とみなして不動産に関する規定を準用するとの規定の趣旨からして疑のないところである。

しかのみならず、法律第百二条附則第十条但書の規定による延長許可は四ケ年と法定的に決定したのではなく、主務大臣の許可によつてその延長すべき期間は「四年以内」となつているので、具体的に許可されて登録をなし得る延長の期間が何年であるかは第三者においては予め知ることは全く不可能であつたのである。この点現行法がその第十八条において、法定存続期間を登録から二年として、二回に限り延長することができる、前項の規定により延長する期間は一回ごとに二年とする、と明記してあるのとは全くその趣を異にするものである。第四六五〇号の延長登録はその始期を明記することが絶対に必要であり、登録の原則である。始期がなければ登録の日を始期として延長の期間を計算することもまた当然の結論である。

ハ、第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日に設定登録がなされ、昭和二十三年十月十九日にその延長登録がなされているが、その間約八年三ケ月は原簿上においては全く空白であつて、その間右試掘権の存続期間が継続し、権利が存続していたかどうかは原簿上は全く不明である。したがつてこの期間においてその権利をもつて第三者に対抗することはできないものであり、この点は鉱業法第十二条ならびに同法第五十九条の趣旨に照して明らかである。この意味で増産法による期間進行の停止も一種の期間の延長であるに過ぎないから、それらの事実もすべて鉱業原簿に登録するにあらざればその停止の事実すなわち試掘権延長の事実をもつて第三者に対抗することはできない。このことを無視してなされた右四番の延長登録は無効である。

ニ、第四六五〇号の四番の延長登録申請は、鉱業法施行細則第百条第五の規定に違反し、試掘権存続期間中における各年別稼行実績なるものを全然記載していないものであるから、不適法として右申請を却下すべきにかかわらず、被告がこれを受理して延長登録を許可したのは違法であり、右四番の延長登録は無効である。

(三)  原告は、第六〇二〇号が設定登録されるや、直ちにその試掘準備にとりかかり、六百数十万円を投資したが、これが事業化された場合は村営で経営することになつており、地方自治体は勿論その地方一帯の経済開発は期して待つべきものがあつたのである。一方訴外帝国石油株式会社は数多くの鉱区を所有しており、本件鉱区の如きは物の数ともせずに永年にわたつて休眠させているものであることは公知の事実で、被告の本件処分は単に原告に対して莫大な損害を与えた許りでなく、国家産業経済の面からも多大な損失を与えたものであるから、違法若しくは著しく妥当を欠くものとして許されないものである。

五  原告は被告のなした違法処分に対して異議の申立をしたが、昭和二十九年十二月二十七日却下されたので、本訴に及んだ次第である。

と陳述し、被告の主張事実中、第六〇二〇号は原告および訴外藤本泰男との共同出願によるものである点、および第四六五〇号の四番の延長登録申請書中、試掘権存続期間中における各年別稼行実績の欄に、「本鉱区は豊富背斜に在り之れを目標として試掘権をかく保したるものにして目下調査中に付試掘権の延長を許可せられ度い」との記載がある点はいずれもこれを認めると述べた。

被告指定代理人は、本案前の申立として、「本訴はこれを却下する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として、本訴請求の趣旨第一項は、被告が昭和二十九年十二月十五日札通二八試第九六七号をもつて第六〇二〇号の石油および可燃性天然ガスの試掘権を取り消し、その出願を不許可とした行政処分の取消を求めているのであるが、本試掘権は、昭和二十八年四月二十六日付の原告および訴外藤本泰男の共同出願に対し、被告が同年同月二十八日受理し、同年十一月十一日これを許可して翌十二日第六〇二〇号として設定登録された鉱業権であるから、鉱業法第四十四条第五項によつて右共同鉱業権者は組合契約をなしたものと看做されるのである。その結果右鉱業権は右両名に合有的に帰属する組合財産たる性質を有するから、これが権利を被告の違法な処分によつて侵害されたとし、その取消を訴訟上主張して争う適格は、権利の主体たる組合員全員すなわち右両名が共同した場合にのみ認められるに過ぎない。しかるに前記組合の一組合員たる資格を有するに過ぎない原告の提起にかかる本訴は当事者適格を欠く不適法なものであるから却下されるべきである。

なお、原告は本訴請求の趣旨第二項において、第四六五〇号の試掘権設定登録、ならびに昭和二十三年十月十九日の同鉱区の試掘権の延長登録、昭和二十八年一月三十日の同鉱区の試掘権再延長登録の各取消登録を求めているのであるが、これは本件行政処分の取消請求とは何ら関連を有しない新たな処分をなすべきことを裁判所が被告に命ずることを求めるに外ならないのである。元来、裁判所は司法権行使の機関として、原則として法の具体的適用を保障する権能を有するに止まり、行政上の目的を実現する任務までを有するものではないから、法令に別段の定めのある場合の外は裁判所が行政庁に代つて自ら処分したと同様の効果を生ずる判決をしたり、行政庁に処分を命じたりすることはできないものと言わなければならない。もしこのような権能を裁判所に認めるならば、裁判所が行政権を行使したり、あるいは行政庁を監督する結果を招来し、三権分立の原則に違背することになるからである。そうだとするならば、原告のこの部分に対する請求も不適法のものと言わなければならないから当然却下されるべきものである、と述べ、

本案について、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告の請求原因の事実中、

第一項については 原告および訴外藤本泰男が共同して、天塩国豊富村地内の石油および可燃性天然ガスを目的として昭和二十八年四月二十六日付をもつて被告に対して試掘権設定出願をなし、被告が同年同月二十八日試二八年第九六七号としてこれを受理したことおよび被告が右出願を許可したので原告は同年十一月十二日第六〇二〇号として試掘権の設定登録をしたこと

第二項については 全部

第三項については 訴外帝国石油株式会社の第四六五〇号が昭和十五年七月二十二日設定登録されたこと

第四項については 第四六五〇号の登録原簿の表示番号四番、同八番、同十一番に原告主張のような記載のあることおよび第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日に設定登録され、昭和二十三年十月十九日にその延長登録がなされる迄八年三ケ月の間は原簿上に右試掘権の効力に関する何らの記載がないこと

はいずれもこれを認めるが、その余の事実を否認する。

原告の主張を要約すると、本件処分は、第四六五〇号と第六〇二〇号とは何ら重複しないのにかかわらず、被告がこれを重複するものと誤認してなした処分であるから違法であるというにあるが、その内第六〇二〇号が第四六五〇号に地形上全部包含されて重複することは、原告外一名が通商産業大臣に対してなした異議の申立において自から認めるところであるから、第四六五〇号の登録が原告外一名の出願が許可された昭和二十八年十一月十一日当時実体上有効に存続していないというに尽きるものであり、本訴請求の原因もこの点にあるので、次に第四六五〇号が有効に存続していた経過を明らかにする。

第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日設定登録され、その存続期間は旧鉱業法第十八条第一項(明治三十八年法律第四十五号)によつて二ケ年となつていたが、昭和十五年四月六日公布の法律第百二号の附則第十条および右法律の一部施行期日を定めた昭和十六年五月十三日公布の勅令第五百八十三号によつて存続期間が昭和十六年六月一日より四ケ年と伸長されたので昭和二十年五月三十一日まで存続する筈であつたところ、昭和十九年九月三十日公布の軍需省告示第六百三十一号により重要鉱物増産法(昭和十三年三月二十九日公布の法律第三十五号)第一条の二の規定による地域および鉱物と指定され、右軍需省告示の施行期日である昭和十九年十月一日右重要鉱物増産法第一条の五により存続期間の進行が停止されることとなつた。その結果、前記昭和二十年五月三十一日までの残存期間八ケ月の進行が停止されたものである。ついで昭和二十三年五月三十一日に至り商工省告示第五十五号により、前記の軍需省告示第六百三十一号(重要鉱物増産法第一条の二の規定による地域および鉱物指定の件)は、昭和二十三年五月三十一日限り廃止されたので、残存期間の八ケ月が翌昭和二十三年六月一日から進行を開始し、昭和二十四年一月三十一日で満了することとなつていた。ところが昭和二十三年七月二十五日第四六五〇号の権利者より旧鉱業法施行細則(明治三十八年農商務省令第十七号)の定めにしたがい、昭和十五年四月六日公布の法律第百二号の附則第十条の規定する四ケ年の存続期間延長の申請があつたので、被告は、鉱業法による商工大臣の職権の一部を商工局長え委任する省令(昭和十八年商工省令第九号、昭和二十三年商工省令第十九号により改正)第一条第十号の規定により申請にかかる四ケ年の延長を許可し、同省令第三条によつて昭和二十三年十月十九日延長登録をなした。その結果存続期間は昭和二十四年二月一日より昭和二十八年一月三十一日まで延長されたのである。その後さらに昭和二十八年九月十五日鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)第十八条第四項の定めにしたがい、同条第二項の存続期間延長の申請があつたので、被告はこれを許可し、鉱業登録令第四十四条により昭和二十八年一月三十日二ケ年の延長登録をなした。その結果存続期間はさらに昭和二十八年二月一日より昭和三十年一月三十一日まで延長されたのである。

以上の次第であるから、昭和十五年七月二十二日設定登録された第四六五〇号は、昭和二十四年一月三十一日までは法令の規定によつて存続していたのであるから、その後なされた昭和二十三年十月十九日の延長登録および昭和二十八年一月三十日の再延長の登録は有効であり、原告が主張する如く、延長不可能な状態にあつたものではない。要するに、昭和十九年九月三十日公布の軍需省告示第六百三十一号の施行期日たる昭和十九年十月一日に第四六五〇号が適法に存続していたか否か、換言すれば、昭和十五年四月六日公布の法律第百二号の附則第十条の施行期日が昭和十六年五月十三日公布の勅令第五百八十三号により指定された昭和十六年六月一日か、あるいは原告の主張する右法律第百二号の公布の日である昭和十五年四月六日であるかに極限される。もし附則第十条の施行期日が原告主張のように昭和十五年四月六日であるとすれば、第四六五〇号の設定登録以前から施行されたこととなるので、同試掘権には附則第十条の適用の余地がなく、当然設定登録の昭和十五年七月二十二日から四年の昭和十九年七月二十一日で満了して右軍需省告示の適用はなかつたこととなる。しかしながら前記昭和十六年勅令第五百八十三号によれば「昭和十五年法律第百二号は第十条の改正規定を除くの外昭和十六年六月一日より之を施行す」とあり、「………附則第十条の改正規定………」とはなつておらず、その第十条とは法令の当然の解釈として昭和十五年法律第百二号本文の第十条を指すものであることは明らかなことである。さらにこれを詳言すれば、法律第百二号本文が改正する「要塞地帯に関する部分」および「陸軍輸送港域に関する部分」の規定を除き、他の改正規定は一律に昭和十六年六月一日より施行する趣旨であることは明らかであるから、附則第十条の現存試掘権の四年なる存続期間は、昭和十五年勅令第五百八十三号の本来の趣旨に従つて昭和十六年六月一日より進行を開始すべきことは事理の当然である。これに反し、原告の、右勅令第五百八十三号は昭和十五年法律第百二号の附則第十条を除外しているとの主張は法令の解釈を誤つた独自の見解に過ぎないもので何ら理由のないものである。

原告は、法律第百二号附則第十条をいわゆる施行細則的性質をもつものと解して、右附則第十条の施行期日を右法律公布の日の昭和十五年四月六日と主張するけれども、右は附則第十条本文を故意に自己に有利に解釈するに外ならない。すなわち、法律第百二号においては、従前の鉱業法第十八条第一項の試掘権の存続期間が登録の日から二ケ年であつたものを四ケ年に改正したが、この改正後の四ケ年なる存続期間の適用を受けるものは改正法律施行の日、すなわち昭和十六年六月一日以降新たに設定登録された試掘権についてであることは、本来法律の施行が不遡及を原則としていることからして当然である。しかるところ原告は改正法律の附則第十条本文は特別な意義を有するものではなく、単に施行細則的性質を有するに過ぎないとし、帰するところ、改正法律第十八条第一項の四ケ年なる存続期間は既存の試掘権にも適用される如く解し、第四六五〇号は右第十八条第一項によつて、設定登録の昭和十五年七月二十二日から二ケ年であつたものがその日から四ケ年となつたとの主張は、前記不遡及の原則を排除した規定、例えば、附則第十条本文で「………現存スル試掘権ノ存続期間ハ登録ノ日ヨリ四年トス」の如く、「登録ノ日ヨリ」の文言があれば、あるいは原告の主張のような解釈もできないわけではないが、かかる規定が何ら存在しない改正法律の解釈としては到底容れられないところと考える。然らば、改正法律の附則第十条本文は如何なる意義を有するものであるかを考察しなければならないが、右附則第十条本文において現存試掘権の存続期間を改正法律施行の日より四年とした所以のものは、改正法律の経過措置として、改正法律施行の日に現存する試掘権はすべてその施行期日より起算して四年存続することとし、旧法によつて設定登録されたものは一齊に昭和二十年五月二十一日をもつて消滅することとしたのである。これを詳言すると、従来試掘権は二ケ年の存続期間が附せられてあつたが、改正前の本法第三十三条ノ二において、その期間満了後試掘権者は十日以内にさらに出願すれば他の出願人に優先して権利を付与せらるるため、試掘権は殆んど無期限に延長し得る結果となり、現に試掘権が設定されていながら事実は試掘が行われないということもあり得て、期間を二ケ年とした第十八条第一項の規定は全く空文化し、試掘権制度本来の趣旨が著しく没却されていたので、改正法律では右第三十三条ノ二の規定を削除することとした。しかしその結果として試掘権者が試掘権を優先的に続願する途は全く閉され、二ケ年をもつて終了するときは、誠実に探鉱せんとする者にとつて充分なる試掘をなし得ず、かつ充分なる企業設備も資本の投下もできない欠点もあるので、実質的に一回延長を認めるという意味において、今後新たに設定される試掘権は二ケ年をさらに二ケ年延長して四ケ年の期間を認めることとして規定したのが改正法律第十八条第一項であつたのである。一方改正法律施行の際に既に現存する試掘権については、従来第三十三条ノ二第一項の規定によつて延長できるものとの期待を有する試掘権者にとつては、改正法律で右第三十三条ノ二が削除されることとなると、設定登録の日から二ケ年の期間で打切られることとなるので、この不利益を防止するため改正法律の附則第十二条第三項および第四項を規定したが、これとて改正法律施行期日前に存続期間が満了したものに適用されるに止まり、施行期日後に満了する試掘権については不利益を防止し得ないので、不利益を蒙るべき最大限の試掘権(昭和十六年五月三十一日設定登録された試掘権―これは改正前の第十八条第一項の二ケ年が適用されるときは昭和十八年五月三十一日で満了する)を対象として附則第十条本文で現存試掘権の存続期間は改正法律施行の日から四年存続するものとし、もつて本法第十八条第一項との調整を図つたものである。

叙上の如く、改正法律の附則第十条本文は本法の施行殊に旧規定第三十三条ノ二の削除と第十八条第一項の改正の経過措置として規定されたもので、原告主張の如く本法第十八条第一項と同意義のことを規定したものでなく、勿論右第十八条第一項の趣旨を変更したものでもなく、それ自体重要な意義を有し、必要不可欠の規定であつて、その規定の文言通り現存試掘権の存続期間は改正法律施行の日から起算して四年とすると解するのが至当である。なるほど原告主張の如く、被告の解釈に従えば、昭和十四年六月一日に設定登録されたものは約六ケ年の存続期間となるが、前述のように最も不利益を蒙る試掘権者を保護する趣旨であり、法律改正の過渡的状態においては、国民の不利益を回避することに考慮を払うは当然であつて、これによつて反射的に利益を受ける者があつても、これを容認しなければならないところであり、かかる考慮の下に定められた附則第十条本文が本法第十八条第一項の根本趣旨に合致こそすれ、その趣旨に反することとはならない。

(四の(二)イに対して)

原告は、第四六五〇号の昭和二十三年十月十九日になされた延長登録は、元来その登録の日から起算して四ケ年の昭和二十七年十月十九日迄とすべきであつて、それを超過すること三ケ月十二日であるから右延長登録は当然無効である、仮りに全部が無効でないとしても少くとも本来の延長期間の満了日である昭和二十七年十月十九日以降は効力がないからその後の延長登録は無効であると主張するけれども、右は存続期間の延長登録の概念を著しく誤つたものといわなければならない。すなわち、第四六五〇号は法令の規定により昭和二十四年一月三十一日迄存続していたところ、昭和二十三年七月二十五日右試掘権の権利者より法律第百二号附則第十条但書の四ケ年延長方について適法な許可申請があつたので、被告は昭和二十三年十月十九日鉱業法による職権の一部商工局長えの委任の件第一条第十号によりこれを許可し、同第三条に基き存続期間満了の昭和二十四年一月三十一日の翌日である同年二月一日から四ケ年の昭和二十八年一月三十一日まで存続期間を延長する旨登録したものである。然るに原告は、延長を登録した日である昭和二十三年十月十九日を始期とする四ケ年と登録すべきであつて、およそそのように登録した日をもつて始期と解し、もつて更新の原理だとしているが、その延長登録による延長の公証力は登録した日から生ずるが、その効力は前存続期間満了の日と同時に生ずるものである。しかして原告は右両者を判然と識別し得なかつたものであつて、およそ期間の延長とは、前期間を終了させることなく終期を一定期日まで伸長するとの意であつて、従前の期間を四ケ年延長するとは、前期間満了の日の翌日を始期として四ケ年延長するということであることは事理の当然である。仮りに原告主張の如く、延長登録の日から起算するものとするならば、旧鉱業法施行細則第百条は存続期間満了の日前六月ないし一年間に延長申請をなすべきことを規定しており、右申請を許可した延長登録も存続期間と空白を生ぜしめることなくその満了以前になされなければならなかつたことなどは、いずれも権利者に不利益を強いることである。それを本件第四六五〇号の延長登録について述べるならば、前述の如く法律上当然昭和二十四年一月三十一日まで存続していたところ、権利者から旧鉱業法施行細則第百条所定期間内であり、存続期間満了日の六ケ月七日前である昭和二十三年七月二十五日に存続期間の延長申請があり、存続期間満了の日から三ケ月十二日以前の同年十月十九日延長登録がなされたので、右三ケ月十二日間だけ存続期間を短縮する結果となり、権利者に不利益を与えることとなる。かように権利者の不利益を法令が容認したものとは到底考えられないところであるし、さらには、この不利益を防止するためには存続期間満了の翌日遅滞なく延長登録をしなければならず、なおその登録も午前零時になされない以上時間的にも空白の生ずることを防止することは不可能である。従つて延長登録を存続期間満了日以前になすために申請期限を存続期間満了の六ケ月以前になすべきことを規定したものであつて、延長登録の日は何ら延長期間の始期には関係がなく、単に延長を許可したことを登録によつて公に証明した日を示したに過ぎないものであるから四ケ年の延長期間の始期は存続期間満了の翌日である昭和二十四年二月一日であり、その始期は昭和二十八年一月三十一日であることは明白である。以上の次第であるから、第四六五〇号の原簿の表示欄四番の登録は何ら無効でなく、また昭和二十七年十月十九日以降無効のものでもない。したがつて四番の有効な延長登録に基いてなされた昭和二十八年一月三十日の再延長登録および昭和三十年一月十日の再々延長登録も適法になされたものである。(四の(二)ロに対して)

第四六五〇号の原簿の表示欄四番の延長登録以前の従前の存続期間は、前述の如く法令の規定により昭和二十四年一月三十一日迄であつたから、右四番の延長登録の始期は当然昭和二十四年二月一日であつて、この存続期間の延長を登録するには、その終期を表示すれば充分である。寧ろ旧鉱業法においては延長登録は存続期間の満了までになされなければならないことおよび期間満了により権利が消滅した旨の抹消登録がないことからして当然存続期間が満了して権利が消滅することなく、昭和二十八年一月三十一日迄存続するものとみるのが至当である。また第三者に対抗するためにも存続期間の終期を明示し、それまで存続するものである旨を表示すれば充分であつて、かつ鉱業干係法令に始期の明記を命じた規定もないから、殊更始期をも明示する必要は毫末もない。原告は、表示欄八番の昭和二十八年一月三十日の再延長登録において始期を明示しているところより、かく主張するものであることは推測するに難くないので、この点を明らかにするに、新鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)第二十条の如く、その延長申請が拒否されるまで、または延長の登録があるまでその権利は存続するものと看做されることとし、旧法と異なり存続期間終了後における申請の拒否または延長の登録が許されることとなつた結果、存続期間満了から延長登録の日まで試掘原簿上では権利が消滅したことになるので、出願の機会を公平にするために、第三者に不測の損害を与えないために新鉱業登録令施行規則(昭和二十六年通商産業省令第四号)第二十六条により延長申請があつたことを試掘原簿に記載することとし、かつ延長登録によつて許可による延長の効力が前期間満了の翌日まで遡及することを明示するために事実上の取扱として始期を記載することとしたのである。これとても延長なる観念からして存続期間の終期が判明する表示のみで充分である。しかるに旧鉱業法においては右の如き規定は存せず、存続期間満了までに延長登録をなさねばならなかつたので、始期の明示は何ら実益がなく必要のないものであつたのである。以上のように四番の延長登録には違法は存しない。

(四の(二)ハに対して)

第四六五〇号の昭和二十三年十月十九日の延長登録以前の存続期間は法律ないしその委任による命令の公布によつて法律上当然伸長され、進行が停止され、あるいはさらに進行して昭和二十四年一月三十一日迄存続していたもので、試掘原簿上においては設定登録の日からの存続期間が法定せられ、存続期間の表示の必要がないのと同様、殊更右のような法定された事項を表示する必要は少しも存しない。このことは、当然には延長されることがない通常の消滅すべき権利について、その存続を希望する権利者の申請行為に対して所定期日までその権利を行使し得ることを許容したことを公に証明する延長登録とは自らその性質を異にするものであることからも当然のことである。また、殊更法定された事項を登録原簿に記載する必要はなく、勿論鉱業関係法令にこれが記載を命じたものもない。寧ろ第三者は右期間試掘権の存続期間を延長したり、あるいはその進行を停止した一切の法令によつて第四六五〇号はその設定登録の昭和十五年七月二十二日から延長登録されるまで当然存続していたことは知つていたものと看做されるべきであり、また消滅した旨の抹消登録がないことから現存するものとみるのが至当である。

したがつて、昭和二十三年十月十九日の延長登録以前の存続期間は何人にも対抗できたものであり、適法な右延長登録によつてその存続期間は継続して伸長されたものであるから、右期日における延長登録は決して無から有を生ずるものではない。仮りに原告主張の如く試掘原簿上右延長登録以前の存続期間に第三者に対抗し得ない空白があつたとしても、原告の出願許可は昭和二十八年十一月十一日であり、右期間における第三者とはいえないのみならず、右許可当時は存続する旨の登録があつたものである。

(四の(二)ニに対して)

第四六五〇号の昭和二十三年七月二十五日の延長申請には所定の稼行実績の記載があつた。すなわち、右延長登録申請書中、試掘権存続期間中における各年別稼行実績の欄に、「本鉱区は豊富背斜にあり之れを目標として試掘権をかく保したるものにして目下調査中につき試掘権の延長を許可せられ度い」との記載がある。仮りにその記載が適切でないとしても旧鉱業法施行細則第百条の申請書の記載事項の第五号は、存続期間中における試掘権者の誠実に探鉱をなした事実を知るためであつて、さらに探鉱する必要性を知るため第四号と共に客観的継続の必要性の判断の資料に過ぎなく、右第四、五号をもつて延長の必要性が窺知し得る程度で充分であつて、いわんや第五号は効力要件でもない。寧ろ法律第百二号附則第十条但書の延長期間の規定においては、石油の試掘権を優位に扱つており(新法第十八条第二項においても同様)、このことは元来石油を目的とする試掘権は、石油の試井の掘下げには、その試井が採掘の基本の油井となるため慎重に行われなければならないこと、その油井は一本堀り下げるには通常一年余の日数を要すること、さらに石油の賦存地帯は多くは積雪地方に偏在し、探鉱期間が制約されること等により他の鉱物と同様に取扱い得ない為であつて、第四六五〇号の延長申請の許可に当つては被告においてこれらの特殊性と、天然資源の開発利用による公共の福祉の増進等一切の客観的事情を深く考慮し、当該延長申請の許可について己むを得ざる事由があると認めた結果それを許可したものであつて、何ら無効な許可ではない。ひつきよう被告の存続期間の延長の許否は被告の自由裁量に属する行為である。

以上のとおり、第四六五〇号が適法に存続していたのであるから被告がこれと重複する原告外一名の共同出願を許可し、第六〇二〇号の設定登録をなしたことは、鉱業法第二十九条に違反して本来許さるべきでないものを錯誤によりなしたものであるから、これを取り消し、かつ出願に対して不許可処分をなしたことは何ら違法のものではない。結局、第四六五〇号が原告外一名の共同出願を許可した昭和二十八年十一月十一日当時存続していなかつたことを前提とする本訴請求は失当であり、棄却されるべきものである、と陳述した。

理由

一  被告は、本案前の抗弁として、本訴請求の趣旨第一項は、被告が原告らの第六〇二〇号の石油および可燃性天然ガスの試掘権を取り消してその出願を不許可とした処分の取消を求めているのであるが、同試掘権は原告および訴外藤本泰男との共同出願によるものであるから、本訴は右両名の必要的共同訴訟であるのにかかわらず原告のみが提起したのに過ぎないので原告適格を欠いて不適法である、と主張するので先ずこの点について判断するに、第六〇二〇号が原告および訴外藤本泰男との共同出願によるものであることは当事者間に争いがないところであるから、このような場合は鉱業法第四十四条第五項によつて共同鉱業権者は組合契約をなしたものとみなされるが故に特別の規定がない限り民法の組合に関する規定が適用されるものと解せられるので、右鉱業権は民法第六百六十八条の規定により右両名の共有に属することとなる。しかして共有に関する民法第二百五十二条は、共有物の保存行為は各共有者がこれをなすことができる旨規定しているが、同条のいわゆる保存行為とは、共有物の現状維持を目的とするすべての行為を包含するものと考えられ、共有物に対する侵害を排除し、もつて侵害前の状態を維持しようとするような行為は当然保存行為に該当するものと解される。ところで行政事件訴訟の提起は行政権による違法な侵害を排除して侵害がなかつた状態を維持しようとするものであるから、共有者全員に対する行政処分に対して共有者がその処分の効力を争つて行政事件訴訟を提起することは、ひつきよう前示保存行為に外ならないと解するのが相当である。行政事件訴訟特例法第一条は、行政庁の違法な処分により自己の権利を毀損された者はすべて出訴できることを宣言しており、共有権者について全員の必要的共同訴訟を必要とする規定もないのであり、たとえ共有者の一員が出訴してその結果敗訴になつたとしても、それは共有者全員が訴を提起しないで行政処分を甘受していること以上の不利益を与えることにはならないのであるから、共有者の一員が出訴することは他の共有者に対して利益を及ぼすことはあつても不利益を強いる結果にはならないと考えられる。したがつて原告の違法処分の取消を求める第一の訴は適法であつて被告の抗弁は採用することができない。

二  よつて進んでその本案について審究するに、

原告および訴外藤本泰男が共同して天塩国天塩郡豊富村地内に石油および可燃性天然ガスを目的として昭和二十八年四月二十六日被告に対して試掘権設定出願をしたところ、被告は同出願を札通二八試第九六七号として受理した上同年十一月十一日これを許可したので、原告らは同月十二日第六〇二〇号として設定登録をしたこと、被告は昭和二十八年十二月十五日、第六〇二〇号の試掘権設定登録は錯誤に因るものであるとして請求の趣旨第一項のとおりその取消ならびに右出願の不許可処分をなし、札通二八試第九六七号をもつて原告に通知したこと、訴外帝国石油株式会社の第四六五〇号が昭和十五年七月二十二日設定登録され、その登録原簿の表示欄四番に「昭和二十三年十月十九日存続期間を昭和二十八年一月三十一日迄延長登録す」同八番に「本試掘権の存続期間を昭和二十八年二月一日より二ケ年延長したことを登録す」、同十一番に「本試掘権の存続期間を昭和三十年二月一日より二ケ年延長したことを登録す」との記載があり、かつ昭和十五年七月二十二日に設定登録されてから昭和二十三年十月十九日にその延長登録がなされるまで八年三ケ月の間は原簿上に右試掘権の効力に関する何らの記載もないことはいずれも当事者間に争いがない。

三  原告の主張は、先ず第六〇二〇号と第四六五〇号とは、区域上では勿論法律的にも全く重複していないのにかかわらず被告がこれを重複するものと誤認した結果、第六〇二〇号について一旦許可し登録したものを錯誤を理由に取り消してしまつたのであるからその取消処分は違法であるというにあるが、第六〇二〇号の鉱区が第四六五〇号の鉱区に区域上全部包含されて重複するものであることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるので、結局この点に関する争点は第四六五〇号が原告らの出願が許可された昭和二十八年十一月十一日当時有効に存続していたかどうかという点に要約される。

第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日設定登録されたので、その存続期間は旧鉱業法第十八条第一項によつて二ケ年であつたが、昭和十五年四月六日公布の法律第百二号附則第十条は、「本法施行ノ際現ニ存スル試掘権ノ存続期間ハ本法施行ノ日ヨリ四年トス但シ………」と規定したので、同附則の適用の有無について考えてみるに、右法律の一部施行期日を定めた昭和十六年五月十三日公布の勅令第五百八十三号によれば、昭和十五年法律第百二号は第十条の改正規定を除くの外昭和十六年六月一日よりこれを施行す、とあり、附則第十条の改正規定を除くの外、とはなつていないのであるから、その第十条とは法令の解釈として法律第百二号本文の第十条を指すものであることは事理の当然であり、法律第百二号はその本文第十条の改正規定を除いて昭和十六年六月一日より施行されたことが明らかである。したがつて、法律第百二号本文第十八条によつて昭和十六年六月一日以降設定登録された試掘権の存続期間は四ケ年となるが、第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日に設定登録されたので、法律不遡及の原則に則り同試掘権には右第十八条の改正規定は適用の余地のないことは言うまでもないが、昭和十六年六月一日当時は右第四六五〇号は有効に存続していたので当然法律第百二号附則第十条が適用される。原告は右附則第十条を法律第百二号本文第十八条の施行細則的規定で特別の意義を有しないものと解しているが、前説示のように右第十八条が昭和十六年六月一日以前に設定された試掘権には適用されないものであるのに反し、附則第十条は「本法施行ノ際現ニ存スル試掘権ノ存続期間ハ………」と規定するので、昭和十六年六月一日以前に設定登録された有効な試掘権を対象とするものであることが明らかなので、同附則第十条をもつて特別の意義を有しない規定と解することは許されない。したがつて同附則第十条は、昭和十六年六月一日現在存続中の試掘権の存続期間を同日より四ケ年に延長する趣旨であると解するのが相当であつて、これに反する原告の主張は採用する余地のないものである。

果してそうだとすると、第四六五〇号の存続期間は昭和十六年六月一日より四ケ年の昭和二十年五月三十一日まで伸長されたが、その間昭和十九年九月三十日公布の軍需省告示第六百三十一号により重要鉱物増産法(昭和十三年三月二十九日公布法律第三五号)が適用される結果、同法第一条の二の規定による地域および鉱物の指定を受け、また右軍需省告示の施行期日である昭和十九年十月一日右重要鉱物増産法第一条の五により存続期間八ケ月の進行が停止された。ついで昭和二十三年五月三十一日に至り商工省告示第五十五号より右軍需省告示第六百三十一号は昭和二十三年五月三十一日限り廃止されたので残存期間八ケ月が翌昭和二十三年六月一日から進行を開始し、昭和二十四年一月三十一日で満了することとなつたものというべきであり、その期間満了に先き立つて昭和二十三年十月十九日に延長登録がなされたのである。

四  原告は、右の第四六五〇号の昭和二十三年十月十九日の延長登録はその存続期間をその登録の日から起算して満四年の昭和二十七年十月十九日までとすべきところ、右に述べたとおりその終期を誤つているから右登録は無効であり、仮りに無効でないとしても、少くとも本来の延長期間の満了日である昭和二十七年十月十九日の経過以降は効力がないから、その後の延長登録は無効である、と主張するけれども、第四六五〇号は前述のとおり法令の改正により昭和二十四年一月三十一日まで存続していたもので、その存続期間中の昭和二十三年十月十九日に四ケ年の延長登録をなしたことによつて延長登録の日に延長の公証力を生じ、前期間の満了の翌日を起算点として四ケ年存続期間が延長されたという効力を生じたものと解するのが至当であるから原告の主張は理由がない。

五  次に、原告は、第四六五〇号の右延長登録には始期の記載がないから無効であり、対抗力がないと主張するけれども、鉱業関係法令に始期の記載を命じた規定もなく、第三者に対抗するためにも存続期間の終期を明示することによつて充分であるから、右主張も採用できないところである。

六  原告は、第四六五〇号は昭和十五年七月二十二日に設定登録されてから昭和二十三年十月十九日にその延長登録がなされるまでの八年三ケ月はその原簿上に同試掘権の効力に関する何らの記載もないから昭和二十三年十月十九日の延長登録は無効であると主張するが、同試掘権が法令の改正によつて昭和二十四年一月三十一日まで存続していたことは前説示のとおりであるから関係法令の改正による効力存続についての法定事項を殊更原簿上に表示する必要はないと考えられるし、鉱業関係法令にもこれが記載を命じたものも存しないので、右延長登録はこれがため無効であるとは解されない。

七  原告は、右延長登録申請には所定の稼行実績の記載がないので、被告は右申請を不適法として却下すべきであつたから、右延長登録は無効であると主張するが、右延長登録申請書中試掘権存続期間中における各年別稼行実績の欄に、「本鉱区は豊富背斜にありこれを目標として試掘権をかく保したるものにして目下調査中につき試掘権の延長を許可されたい」との記載があることについては当事者間に争いがないところであるので、右記載の全く欠缺することを前提とする原告の右主張は理由がない。

八  原告はさらに、原告らは第六〇二〇号が設定登録されるや、直ちに巨額の資本を投下して試掘準備にとりかかつたのにかかわらず本件処分によつて右試掘権を取り消されて操業中止の止むなきに立ち至り、甚大な損害を受けるに至つた等の事情を主張して本件処分の違法性を指摘するけれども、原告の主張する各事実については全然証拠がないのであるし、仮りにこのような事実があつたとしても、そのため本来適法な行政処分が違法となるいわれはないから、右主張は理由のないものである。

九  果してそうだとすると原告の主張はすべて理由がなく、訴外帝国石油株式会社の第四六五〇号は、法令の改正により昭和二十四年一月三十一日まで存続期間が伸長され、その後の昭和二十三年十月十九日の延長登録、昭和二十八年一月三十日の再延長登録によつて昭和三十年一月三十一日まで存続していたのであるから、原告らの昭和二十八年十一月十二日に設定登録された第六〇二〇号は、鉱業法第二十九条の規定に違反して設定されたものであり、被告がこれを錯誤によるものとして取り消した本件処分は正に正当という外はない。よつて原告の「違法処分の取消」を求める請求は理由がないので棄却する。

一〇  なお原告は、請求の趣旨第二項において、第四六五〇号の試掘権設定登録、昭和二十三年十月十九日の延長登録、昭和二十八年一月三十日の再延長登録、昭和三十年一月十日の再々延長登録の各取消登録および第六〇二〇号の試掘権設定登録取消の回復登録を求めているが、これは違法な行政処分の取消判決の確定によつて関係行政庁がき束されて当然なすべきことであつて、裁判所が判決により被告に対してなすべきことを命ずる筋合ではない。したがつて原告のこの部分の訴は不適法として却下を免かれないものである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判官 立岡安正 吉田良正 石垣光雄)

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